閉店する店、昔住んでた街

あるケーキ屋が閉店するのを、ツイッターを見ていて知った。まえに住んでた街にあり、一度食べたこともある。そのときはピンとこなかったけれど、バタークリームのケーキがとてもおいしいという評判を後になって知り(わたしが食べたのはチョコレートケーキだった)、ずっと食べたいと思っていた。

明日が最終日だという。

すぐ行かなくてはと焦り、なんとか時間をつくり、その日のうちに電車で出かけた。

 

昔住んでた街に行くのは楽しい。店や道が色々と変わっていても、街の骨組みは大体同じなので懐かしい。いい店がなくなっていると寂しいが、「いい店がなくなった」と知った風な口をきくことはできる。自分の住んでいた部屋を見に行くのも欠かせない。

 

ケーキ屋の近くまで来ると、甘い匂いがした。

すこし緊張して店に入る。

 

ショーケースは、空っぽだった。

バタークリームのケーキどころではない、ケーキはすべて売り切れ。焼き菓子もほとんど無かった。

閉店と知ってみんなが買って行ったのだ。

 

いちどに気が抜け、そして、自分は何をやっていたのかと夢から醒めたような気持ちになる。

 

冷静な自分が畳みかける。そもそも、今までずっと行かないでいたわたしが、閉店するからといって滑り込みセーフのように名物を買って、間に合ったー!と食べるなんて、いかがなものか。

昔近所に住んでいた頃だって一回しか食べていないくせに、「いい店がなくなった」などと、どのツラを下げて言うのか。

 

だいたい、閉店が決まった店にあわてて行くより、これからも営業し続けるために現役で頑張っている店を訪ね、応援したほうがいいのではないですか。

だって、いつもは人が少なくて、閉店が決まると殺到するのは、なんだか切ない。甘くほろ苦い。ニュースが特にない店にこそ、人は行くべきでしょう。

もう閉店する店に、閉店するからという理由で行くのはやめよう。いい店に、これからも続けて欲しいという気持ちで通おう。

 

あと自分が以前住んでいたアパートのまわりをうろつくのも、かなりみっともなく、やばい。でもこれは、なぜかどうしてもやめられないので、なるべくさりげなく、こっそりとやりましょう。